看護師 子育て 両立 できない
勤務表が配られるたびに、自分の夜勤欄の空白を数えてしまう。
子どもが熱を出すたび、ナースステーションへ頭を下げる。

そんな毎日なら、先にお伝えします。
看護師が仕事と子育てを両立できないのは、あなたの努力不足ではありません。
夜勤ゼロの看護職員がいた病院に退職理由を尋ねると、第1位は「子どもの世話」で74.8%を占めました。
日本看護協会「2024年病院看護実態調査」
しかし、本当の原因は別にあります。
実はその原因の根本は支援制度が、子どもの成長とともに切れていくからです。
短時間勤務は3歳、
夜勤免除は小学校入学、
子の看護等休暇は小3で終わります。
これらの支援制度が切れる時期を知れば、今から準備や対策がを考えておくことができます。

看護師が仕事と子育てが両立できないのは、支援制度が子どもの成長とともに切れていくから

看護師 子育て 両立 できない
このセクションでは、
短時間勤務が3歳で終わること、
夜勤免除が小学校就学前までであること、
2025年の法改正で変わった点、
子どもの年齢から逆算する制度マップ、
そして本当に決めるべき問いを扱います。

短時間勤務の法的義務は3歳の誕生日で終わる

短時間勤務が法律で保障されるのは、子どもが3歳になる前日までです。
3歳の誕生日を境に、勤務時間を元に戻すよう求められる場面が訪れます。

育児・介護休業法第23条は、3歳に満たない子を養育する労働者に対し、1日原則6時間の短時間勤務制度を設けるよう事業主に義務づけました。
短時間勤務制度とは、所定労働時間そのものを短くする仕組みを指し、遅刻早退の扱いや時間単位の休暇とは別のものです。

さらに、適用除外もあります。
勤続1年未満の人、
週の所定労働日数が2日以下の人、
業務の性質上困難と労使協定で定められた業務に就く人
これらの人は、対象から外れます。

3歳以降も時短を使えるかどうかは、勤務先の任意にゆだねられました。
厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」によると、小学校入学から小学3年生まで育児のための勤務時間短縮措置を利用できる事業所は5.1%です。(全事業所ベース)
制度が続く職場は、多数派ではありません。

夜勤免除(深夜業の制限)は、小学校就学前まで

夜勤免除の根拠は、育児・介護休業法第19条にあります。
対象は小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者で、時短より2年以上長く使えます。

第19条は、労働者が請求した場合、事業主は深夜(午後10時から午前5時まで)に労働させてはならないと定めました。
請求は1回につき1か月以上6か月以内の期間を指定し、開始予定日の1か月前までに行います。
請求回数に上限はありません。
パートや非常勤でも、除外事由に当たらなければ請求できます。

除外対象は、
勤続1年未満、
深夜に常態として子を保育できる同居家族がいる、
週の所定労働日数が2日以下、
所定労働時間の全部が深夜にある場合
の4つです。

条文には「事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない」という但し書きが置かれています。
ただし、これを「人手不足なら拒否できる」と読むのは誤りです。
厚生労働省は、事業主は請求どおりに免除を受けられるよう通常考えられる相当の努力をすべきであります。
単に深夜業が事業の運営上必要であるという理由だけで拒むことは許されない、との見解を示しました。
この但し書きの実際の使い方は、H2-4で改めて扱います。

2025年4月・10月の法改正で、使える制度が変わりました

2025年の育児・介護休業法改正は、看護師の両立に直接効く内容を含みます。
残業免除の対象年齢が延び、子の看護休暇の使い道が広がりました。

2025年4月1日施行分では、所定外労働の制限(残業免除)の対象が「3歳未満の子を養育する労働者」から「小学校就学前の子を養育する労働者」へ拡大されました。
子の看護休暇は「子の看護等休暇」へ名称を変え、対象が小学校3年生修了までに延びています。
取得事由には感染症に伴う学級閉鎖等と入園式・卒園式等の行事参加が加わり、勤続6か月未満を除外する規定は廃止されました。

2025年10月1日施行分では、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に向けた「柔軟な働き方を実現するための措置」が事業主の義務になりました。
事業主は次の5つから2つ以上を選んで制度化し、労働者はそのうち1つを選んで使います(厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)。

  • 始業時刻等の変更
    (フレックスタイム制、時差出勤など)
  • テレワーク等
    (月10日以上、時間単位の取得が可能)
  • 保育施設の設置運営等
    (ベビーシッターの手配・費用負担を含む)
  • 養育両立支援休暇の付与
    (年10日以上、時間単位の取得が可能)
  • 短時間勤務制度

子どもの年齢で逆算する「制度の空白マップ」

制度が切れる時期を1枚に並べると、危険な地点が浮かび上がります。
最大の崖は小学校入学のタイミングで、複数の制度が同時に終わります。

子の年齢 使える主な制度 このタイミングで
切れるもの
0歳〜3歳未満 短時間勤務
(法定・原則6時間)
所定外労働の制限
深夜業の制限
子の看護等休暇
3歳〜就学前 所定外労働の制限
深夜業の制限
子の看護等休暇
柔軟な働き方措置(2025年10月〜)
短時間勤務の法的義務
小1〜小3 子の看護等休暇
(2025年4月〜)
深夜業の制限(夜勤免除)
所定外労働の制限
柔軟な働き方措置
小4以降 法定の育児支援制度は残りません 子の看護等休暇




3歳で時短が切れても、夜勤免除と残業免除は就学前まで残ります。
ところが小学校に上がった瞬間、夜勤免除・残業免除・柔軟な働き方措置が一斉に終わります。
学童のお迎えという新しい負担が始まる時期と、法的な守りが最も薄くなる時期が重なるのです。

だから、いま決めるべきは「辞めるかどうか」ではない

制度の空白マップを見れば、判断すべき問いが変わります。
辞めるか続けるか?」ではなく、「どの崖に、いつ、どんな備えで臨むか」です。

いま時短で日勤中心なら、次の崖は3歳の誕生日です。
すでに3歳を過ぎているなら、次の崖は小学校入学で、夜勤免除が切れます。

崖までの残り時間がわかると、動くべき時期も見えてきます。
就学の1年前に師長へ相談する、
時短が切れる半年前に働き方を交渉する、
といった逆算ができます。

この記事の残りでは、
両立できないと感じる原因が勤務体制の構造にあること、
小学校入学後に何が起きるか、
辞める以外の選択肢、
判断の順番、
そして一度離れても戻れる根拠を順に確認します。

看護師が子育てと両立できないと感じる原因は勤務体制の構造

看護師 子育て 勤務体制

このセクションでは、
夜勤に入れない理由の第1位、
退職理由の最多、
24時間交代制という仕組みの性質、
そして「看護師の子供は荒れる」という言葉について確認します。

夜勤に入れない理由の第1位は「子どもの世話」

夜勤に入れないのは、あなただけではありません。
日本看護協会の調査では、その理由の第1位が「子どもの世話」でした。

2024年病院看護実態調査」(日本看護協会、2025年3月公表)は、2024年9月に夜勤時間が0時間だった看護職員がいた病院1,399施設に、その理由を上位3つまで尋ねました。
結果は「子どもの世話」74.8%が最多で、「身体的疾患による健康上の理由」33.0%、「夜間勤務を遂行するための知識や技術の不足」27.7%、「精神的疾患による健康上の理由」22.8%と続きます。

つまり、4分の3の病院が、子育てを理由に夜勤へ入れない看護職員を抱えています。
ナースステーションで肩身の狭い思いをしている人は、全国の病棟に大勢いるのです。

退職理由の最多は「出産・育児のため」です

看護師が仕事を辞める理由でも、出産・育児が最多を占めます。
あなたがいま立っている場所は、看護師のキャリアで最も多くの人が立ち止まる地点です。

厚生労働省「看護職員就業状況等実態調査」(平成22年度/2010年度、n=11,999、主な理由3つまで回答)では、退職理由の第1位が「出産・育児のため」22.1%でした。「その他」19.7%を挟み、「結婚のため」17.7%、「他施設への興味」15.1%と続きます。
出産・育児と結婚を合わせると、ライフイベントが理由の約4割に達します。

このデータは2010年度のもので、看護師全体の退職理由を同じ形式で調べた公的調査は、その後見当たりません。
年次は古いものの、直近の実態とも符合します。
前項のとおり、2024年9月時点で夜勤に入れない理由の最多は「子どもの世話」であり、看護師の離職とライフイベントが結びつく構図は続いています。

24時間交代制は、誰かが抜ければ必ず他者に回る設計

看護師の仕事と子育ての両立の難しさは、あなたの要領の問題ではありません。
病棟という職場が、24時間365日を交代で埋める前提で人員を組んでいるからです。

一般病棟の看護配置は、入院患者に対して常時何人の看護師を置くかという基準で決まります。
この基準は日勤帯だけでなく、深夜帯も同じ体制を維持する前提で人数が算出されます。
夜勤に入れない人が1人増えれば、その分の夜勤枠は必ず他の誰かへ回る仕組みです。

つまり、あなたが夜勤を外れたときに感じる「同僚に迷惑をかけている」という感覚は、錯覚ではなく構造の反映です。
ただし、それを個人の責任として引き受ける必要もありません。
この構造を作ったのはあなたではなく、人員に余裕を持たせない配置設計と慢性的な看護師不足のほうです。

「看護師の子供は荒れる」という言葉が必要以上に刺さる理由

看護師 子供 荒れる

母親の交代制勤務と子どもの行動面の関係を調べた研究は、実際に存在します。
そして、その研究が示したのは「夜勤をすると子が荒れる」という単純な結論ではありません。

米国のデータを用いた研究では、母親の交代制勤務と子どもの行動問題の関連が示唆されました。
ただし、その関連が強く出たのは、ひとり親世帯、低所得世帯、母親がフルタイムで非日勤に就く世帯に限られています。
さらに、家庭ごとの条件を統計的に取り除く固定効果分析を用いた研究では、関連そのものが有意でなくなりました。
有意な関連が残ったのは、母親の学歴が高卒未満の世帯だけです。
分岐点は勤務形態ではなく、世帯の経済状況と支援の量にあります。

看護師という職種に限って勤務形態と子どもの行動面を調べた研究は、確認できていません。
SNSやQ&Aサイトに並ぶのは、個人の体験談です。

この言葉があなたに刺さるのは、根拠が強いからではなく、あなたがすでに「子どもに寂しい思いをさせている」と感じているからです。
その痛みは本物ですが、痛みの強さと事実の確からしさは別のものです。

看護師が子育てと両立できない壁は、小学校入学後にもう一度訪れます

このセクションでは、
学童の閉所時間と勤務時間のずれ、
勤務表より先に決まる学校行事、
そして夏休みという40日間の空白を扱います。

学童の閉所時間と日勤の終わる時間は合いません

保育園を乗り切っても、小学校でもう一度壁が来ます。
学童保育の閉所時間が、看護師の日勤の終わりに間に合わないからです。

学童保育とは、放課後児童クラブの通称で、就労等により保護者が昼間家庭にいない小学生を放課後に預かる事業を指します。
こども家庭庁「令和7年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」(令和7年5月1日現在・確報値)によれば、18時半を超えて開所しているクラブは全体の約62%です。
裏を返せば、約4割のクラブは18時半までに閉まります。

日勤の終業が17時でも、記録と申し送りが押せば18時を回ります。
急変やインシデントがあれば、さらに遅れます。
保育園の延長保育が19時まで対応していた家庭ほど、この差に足をすくわれるのです。
なお、待機児童数は16,330人で、前年から1,356人減りました(同調査・確報値)。
減少傾向にはあるものの、希望すれば必ず入れる状況ではありません。

平日の学校行事は勤務表が出る前に決まる

学校行事とシフトの衝突は、看護師特有の困りごとです。
行事の日程と勤務表が確定する順番が逆だからです。

授業参観、
個人面談、
PTA活動
これらの多くは平日の日中に設定されます。
学校からの連絡は数週間前に届きますが、病棟の勤務表は月ごとに確定し、希望休の締切はそれより早く来ます。
行事の日程を知ったときには、すでに勤務表が組まれている場合があります。

そこで希望休を出そうとすると、勤務表を作る師長に頭を下げることになります。
年に何度も繰り返せば、気まずさも積み上がります。
2025年4月の法改正で、子の看護等休暇の取得事由に入園式・卒園式等の行事参加が加わり、対象も小学3年生修了まで延びました。
ただし対象となる行事の範囲は勤務先の規定にもよるため、就業規則の確認が必要です。

夏休みの40日間を、どう埋めるかという問題が残ります

小学校に上がると、長期休暇という新しい課題が現れます。
保育園には存在しなかった、40日間の空白です。

夏休み中、学童は朝から開所しますが、開所時刻が8時や8時半のクラブも多く、日勤の始業に間に合わない場合があります。
給食もないため、毎日の弁当づくりが加わります。
夜勤明けの朝に弁当を作る負担は、想像以上に重くのしかかります。

冬休みと春休みも同じ構造です。
学童に入れなかった場合は、預け先そのものを毎日確保しなければなりません。
この時期に働き方を変える看護師が多いのは、意志の弱さではなく、制度と生活のずれが最も大きくなるからです。

両立できないと感じても、子供が小さい時の働き方は看護師でも二択ではない

看護師 子育て 両立できない

このセクションでは、
夜勤回数の交渉、
部署異動、
期間を区切る発想、
そして制度が使えないと言われたときの動き方を扱います。

夜勤の回数そのものを交渉する余地はないか?

夜勤は「入る」か「入らない」かの二択ではありません。
回数を減らすという中間の解があります。

夜勤免除を請求すれば、深夜帯の勤務は完全になくなります。
一方で、収入は夜勤手当の分だけ確実に落ちます。
フルで免除するのではなく、月1回や月2回に減らす形で師長と話す道も残されています。
回数を減らせば、手当も一部は維持でき、夜勤のスキルからも離れずに済みます。

交渉の材料は、あなたの生活条件です。
配偶者が月に何日なら在宅か?
実家に頼れる日はあるか?
病児保育に登録済みか?
これらを具体的に示すと、勤務表を作る側も検討しやすくなります。

無理です」ではなく「第3週の週末なら夜勤に入れます」と伝えるほうが、話は前に進みます。

同じ病院の中で、部署を変えるという選択肢はないか?

転職の前に、院内の異動を検討する価値があります。
同じ病院でも、部署によって勤務の形は大きく変わるからです。

外来、内視鏡室、手術室、健診センター、透析室、地域連携室などは、夜勤がないか少ない部署です。病棟から外来へ移れば、夜勤や残業の負担は下がります。給与は病棟より落ちる場合が多いものの、退職金の勤続年数や有給の残日数は引き継がれます。

異動には、あなたの経験が生きるという利点もあります。
急性期病棟で10年働いた看護師の観察眼は、外来のトリアージでそのまま通用します。
ブランクを作らずに働き方だけを変える手段として、院内異動は転職より先に検討すべき選択肢です。

「今後ずっと」ではなく「あと2年だけ」と時期を区切る

働き方の変更を、永久の決断だと考える必要はありません。
期間を区切れば、判断のハードルは一気に下がります。

もう夜勤には戻れない」と考えると、決断は重くなります。
子どもが小学3年生になるまでの4年間は夜勤を減らす」と区切れば、話は変わります。

制度の空白マップで確認したとおり、負担が最も重いのは就学前後の数年間です。
その期間さえ越えれば、選べる働き方は再び広がります。

期間を区切る利点は、師長への伝え方にも及びます。
当面は難しいです」より「小学2年生の3月までは日勤中心でお願いします。その後は夜勤に戻る前提で考えています」と伝えるほうが、勤務表を作る側も長期の計画を立てられます。
あなた自身も、終わりの見える負担なら耐えやすくなります。

制度が使えないと言われたときは、代替案を持って話す

人手不足だから夜勤免除は無理」と言われた場合、その理由だけで拒むことは認められません。
病院側には、代替要員の配置を検討する義務が先に立ちます。

それでも通らない場合、公的な相談先があります。
都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)は、育児・介護休業法に関する相談を受け付けています。
夜勤免除を請求したことを理由とする解雇や不利益な取扱いは、同法第20条の2で禁止されています。
降格や賞与の減額を示唆された場合も、相談の対象です。

ただし、権利の主張だけで話を進めると、その後の勤務表づくりに影響が残ります。
有効なのは、代替案を持って交渉のテーブルに着く方法です。
夜勤は無理です」ではなく、「今年度は月1回まで、来年4月から月2回に戻します」と伝えるほうが、師長も人員を組み立てられます。
相談窓口は、話し合いが成立しなかったときの手段として持っておくものです。

両立できないまま後悔しないために、看護師は子育て中に決める順番を先に決める

看護師 子育て 両立

このセクションでは、
後悔の2つの型、
優先順位の決め方、
そして両立を世帯の設計としてとらえ直す視点を扱います。

辞めて後悔する人と続けて後悔する人

後悔には2つの型があり、どちらが正解とは言えません。
大切なのは、自分がどちらの後悔に耐えられるかを知ることです。

辞めて後悔する人は、収入の減少とキャリアの停滞を悔やみます。
時短やパートに移れば、収入は労働時間に比例して下がり、賞与も評価に連動する制度なら影響を受けます。
病棟を離れれば、最新の治療や機器から距離ができ、数年後の復帰時に不安を抱えます。

続けて後悔する人は、心身の消耗と子どもとの時間を悔やみます。
夜勤明けの体で保育園へ迎えに行き、休めないまま次の勤務に入る生活が続けば、いつか限界が来ます。
その先で体調を崩して離職すれば、収入もキャリアも結局は失われます。

どちらの後悔も現実であり、あなたの条件によって重さは変わります。

収入・キャリア・健康・子どもとの時間のうち、今どれを優先するか?

4つすべてを同時に最大化する道はありません。
優先順位を決めることが、判断そのものです。

住宅ローンの返済が始まったばかりなら、収入の優先度は高くなります。
認定看護師の資格取得を控えているなら、キャリアの優先度が上がります。
すでに睡眠不足で判断力が落ちていると感じるなら、健康が最優先です。
子どもが夜泣きで不安定なら、時間の優先度が跳ね上がります。

重要なのは、この順位が固定ではないという点です。
今年の1位は健康でも、2年後は収入かもしれません。
制度の空白マップと合わせて、
この2年は健康を最優先し、小学校入学後にキャリアへ戻す
という設計を立てられます。
優先順位を紙に書き出すだけでも、迷いの正体は輪郭を持ちます。

両立は一人の課題ではなく、世帯と社会資源の設計です

両立の可否を分けるのは、あなたの頑張りではありません。
配偶者の分担と、使える社会資源の量です。

子どもの発熱時に誰が休むかを、その都度の話し合いで決めていると、事実上あなたが休むことになります。
奇数月は私、偶数月はあなた」と先に決めておけば、判断の負担そのものが減ります。
実家に頼れる日があるなら、緊急時ではなく夜勤の日に定期的に頼るほうが、関係も続きます。

社会資源は、必要になってからでは間に合いません。
病児保育は事前登録が原則で、当日の受付は先着順になる施設が多くあります。
ファミリー・サポート・センターも、会員登録と事前の顔合わせが要ります。
院内保育所は病院の42.4%が実施し、そのうち夜間保育に対応しているのは50.4%です。
厚生労働省「令和5年医療施設調査」
夜勤に戻る条件として、院内保育の夜間枠を確認する価値はあります。

看護師は、子育てで一度現場を離れても戻れる

このセクションでは、
潜在看護師の規模、
離職期間の実態、
そして無料で使える復職支援を確認します。

潜在看護師は65歳未満で約69.5万人もいる

一度辞めたら終わり、という前提は事実と合いません。
看護資格を持ちながら働いていない人は、70万人近くいます。

厚生労働科学研究の分担研究報告書(小林美亜ほか、令和2年度)によれば、平成30年末時点の潜在看護職員は65歳未満で695,461人でした。
65歳以上を含めると793,885人で、潜在率は32.98%に達します。
年代別では30〜34歳の潜在率が36.91%と高く、出産・育児の時期と重なります。

70万人という規模は、あなたが例外ではないことを示します。
同時に、この人数を戻すために国が復職支援へ力を入れている理由でもあります。

離職期間が5年未満の人が45.5%を占めます

離職しても、多くの人は数年で戻ります。
ブランクが一生続くわけではありません。

厚生労働省「看護職員就業状況等実態調査」(平成22年度、n=3,004)では、潜在看護師の離職期間は「1年未満」17.0%、「1年以上3年未満」18.2%、「3年以上5年未満」10.3%で、5年未満が合計45.5%を占めました。
同じ調査で、今後の再就職について「看護職員として働きたい」と答えた人は36.1%です。

ブランクへの不安は現実的な感覚です。
ただし、離職から数年で戻る人が半数近くいるという事実は、その不安が乗り越えられるものであることも示しています。


子育てと両立できない職場を離れる前に、看護師が働きやすい環境を見極める

このセクションでは、制度ではなく運用実績を見る理由、見学と面談で確認すべき質問、そして今日できる最初の一歩を扱います。

働きやすさは「制度の有無」ではなく「運用の実績」で判断します

求人票の「時短勤務あり」「院内保育完備」という文字は、判断材料になりません。
制度があることと、使えることは別だからです。

短時間勤務制度は法律上の義務ですから、記載があって当然です。
夜勤免除も同じです。
制度の有無を並べても、職場の差は見えてきません。
見るべきなのは、その制度を実際に何人が使っているかという数字です。

確認すべき指標は次の5つです。

  • 夜勤免除を現在使っている看護師の実人数
    (在籍数に対する割合)
  • 短時間勤務の対象年齢
    (法定の3歳までか、それより長いか)
  • 院内保育所の夜間保育の有無と、実際の空き状況
  • 子育て中の看護師が在籍している割合と、その人たちの勤続年数
  • 病棟ごとの離職率



2024年度の正規雇用看護職員の離職率は、全国平均で11.0%でした。
(日本看護協会「2025年病院看護実態調査」
同協会の調査は毎年3月に前年度の実績を公表するため、調査名の年と実績の年度が1年ずれます。
この平均を大きく上回る病棟は、人員に余裕がなく、制度が使いにくい可能性があります。

求人票に書かれていないことは、見学と面談で確認

働きやすさは、質問の仕方で見えてきます。
抽象的に聞くと、抽象的な答えしか返りません。

子育てに理解のある職場ですか?」と尋ねれば、どの病院も「はい、もちろんです」と答えます。
この病棟で、いま夜勤免除を使っている方は何人いますか?」と尋ねれば、答えは具体的になります。
数字が即答されるなら、実績がある証拠です。
言葉を濁されるなら、前例が少ない可能性があります。

面談で確認する質問の例を挙げます。
時短勤務は何歳まで使えますか?
子どもの発熱で当日欠勤した場合、どのように人員を補いますか?
院内保育所の夜間枠は、いま何人待ちですか?
勤務表の希望休は、月に何日まで出せますか?
見学の際に、勤務表そのものを見せてもらえるかどうかも判断材料です。

今日できるのは、就業規則を開いて自分の期限を確かめること

今日、退職を決める必要はありません。
やるべきことは、あなたの期限を確認する作業です。

勤務先の就業規則を開き、育児に関する規定を読んでください。
確認する項目は3つです。
短時間勤務の対象年齢が3歳までか?
それより長いか?
夜勤免除の申請手続きと期限がどう書かれているか?
2025年10月施行の柔軟な働き方措置として、勤務先が5つのうちどの2つを選んだか?
この3点で、あなたの制度の空白マップが完成します。

期限が確定したら、動く時期も決まります。
時短が切れる半年前に師長と話す、
就学の1年前に働き方を組み直す、
といった予定が立ちます。
転職を考えるとしても、期限を知ってからのほうが選択の精度は上がります。

【まとめ】

看護師が子育てと両立できないのは、努力の問題ではありません。
夜勤に入れない理由の第1位は「子どもの世話」で74.8%を占めています。
退職理由の最多も出産・育児です。
24時間交代制という仕組みが、個人の頑張りでは埋まらない負担を生んでいます。

判断すべき問いは、「辞めるか続けるか」ではありません。
短時間勤務は3歳で、夜勤免除と残業免除は小学校入学で、子の看護等休暇は小学3年生で切れます。
最大の崖は小学校入学のタイミングで、複数の制度が同時に終わります。

切れる時期を知れば、動く時期も決まります。
夜勤回数の交渉、
院内の部署異動、
期間を区切った働き方
という中間の道も残されています。
一度離れても、潜在看護師の45.5%は5年未満で戻り、ナースセンターの支援も無料で使えます。

今日やるべきことは、退職の決断ではありません。就業規則を開いて、あなたの期限を確かめることです。